白鶯繭子/日本出版販売株式会社「文具はデザイン重視です」
万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第4回は、文具好きのためのイベント「文具女子博」で実行委員を担当する日本出版販売株式会社の白鶯繭子さんです。
職業:日本出版販売株式会社勤務
保有万年筆:4本
子どもの頃から“本屋”に行くのが好きです
幼少期から本が好きで、本屋によく行っていました。例えば、気分転換したい、悩みを解決したいときには決まって本屋に行きます。特別何をするわけでもなく、本屋内をぶらぶらとして、気になった本を手にとったり、文具を見ていると、不思議と気持ちが整理できる。不安に思っていることを悩み続けるモードではなくなるんですね。他のお客さんがどんな本を手にとっているのかを観察するのも好きで(笑)。年配の男性がかわいいお料理の本を手にとっていたりすると、料理をする姿を勝手に想像してしまったり。おもしろい発見がたくさんありますよ。
大きな本屋も好きですが、私が行くのはこじんまりした街の本屋。品揃えに限りがある中で、こういう本をセレクトしているんだとか、逆にこういう本は置かないんだとか、そういうのを見ているのも好きなんです。
よく読むのは、小説や美術書。原田マハさん、金城一紀さん、中村文則さんの作品を好んで読んでいます。ライトに読めるものから、少し覚悟を持って読むものまで、幅広く読んでいるほうだと思います。
就活をするときにも本に関わる仕事がしたいと思って、出版社やマスコミ、新聞社などを受けました。その中で「本」よりも「本屋」に興味があることに気づき、出版流通をしている今の会社を選んだんです。
本に関わりたいと思っていたのに、入社して配属されたのは、まさかの文具の部署! 正直なところ「本の仕事はできないのか…」と思った時期もありました。だけど、文具の世界は知れば知るほどに、深く、そしておもしろくて、今はこの部署でよかったと思っています。
そう思えたのは「文具女子博」の実行委員になったことが大きな理由。これは2017年からスタートした、日本最大級の文具のイベントです。私は入社した2018年から関わっています。
会場には、100社以上の文具メーカーが出店し、来場者は直接メーカーの方とお話をしながら買うことができます。来場された方の熱気がものすごくて、圧倒されることもありますが、その思いの深さに私の文具愛も高まっていきました。
文具はデザイン重視派です
万年筆との最初の出会いは小学6年生のとき。祖母に誕生日プレゼントとして買ってもらった「PILOT」の万年筆です。父や親戚のおじさんが使っているのを見て、自分で欲しいとお願いした記憶があります。友達への手紙以外に、当時流行っていた「プロフィール帳」を万年筆で書いていました。
その頃「万年筆=大人」のイメージを持っていて、万年筆を使っている自分も大人の仲間入りをしたような気持ちになっていたんだと思います。
次の出会いは、成人のお祝いにいただいた「モンブラン」の万年筆。でも実はこの万年筆が自分の筆圧と合っていないようで、ほとんど使えていません…。憧れはあるので、いつかモンブランの万年筆が似合うようになりたいと思っているんですけどね。
自分で初めて買ったのが「カヴェコ/スポーツ」です。書きやすかったのもありますが、完全に見た目のかわいさに惹かれて買いました。ペンケースに入るコンパクトなサイズもお気に入り。かしこまらずに、カジュアルに使えるのが魅力です。
同時期に買ったのが「LAMY/safari」。私は左利きなんですが、これは「東京インターナショナルペンショー」のときに、ペン先を左利き用に加工してもらったんです。圧倒的に書きやすくなりましたし“自分に合った万年筆”という意識が強い1本になりました。
「KACO/レトロ万年筆」は仲間入りしたばかりのもの。黒い本体に赤いポイントがついているのがかわいいですよね! ペン先がちょこんとだけ出ているデザインも素敵なんです。「ガラス工房aun」のガラスペンも最近買ったもののひとつ。これも見た目の美しさに惹かれて購入しました。
文具の魅力は、低単価なのに自分の気分を上げられること。仕事中に使うかわいい付箋やお気に入りの色のノートなど、それを使うだけでテンションが高くなります。だから文具はデザイン重視。ただ、左利きなので、筆記具は文字を押すように書いてもペン先が紙に引っかかりにくい太いタイプを選ぶようにしています。
万年筆を使うのは特別なときだけ
私は日記や美術展、映画の感想をしたためるときに万年筆を使っています。文章を書くのは得意ではないですが、デジタルだとすぐに消せて、何度でも書き直せるから、完成したものはキレイな文章になってしまう。それよりも思ったことをすべて書き記せるほうがいいと思って、アナログにしています。
大学4年生のときから続けているルーティンみたいなもので、書いているノートはすべてとってあります。好きな映画は何度か見ることがありますが、ノートも一緒に見返すと衝撃を受けたポイントが違ったりするのもおもしろいですよ。
万年筆との出会いが大人への憧れだったこともあって、私にとって万年筆は特別なもの。それを使って書くことも同じように特別で、ものすごく私的な時間。普段遣いというよりも、物事を考えたり、気持ちを落ち着かせたいときに使うアイテムなんです。
インクの背景にある物語に惹かれます
「文具女子博#インク沼」というイベントを開催するにあたって、初めは「インクだけで人が集まるのか…」と不安に思っていました。それが蓋を開けてみてビックリ。来場された方のインクに対する愛情が伝わる素晴らしいイベントでした。
みなさん、ただインクが好きというよりも、それを作っている文具メーカーへの愛情や尊敬の気持ちが強くて、各ブースでその思いをヒシヒシと感じることができました。
そのときに文具女子博実行委員会でも「文具女子博オリジナルインク」制作。準備の段階でたくさんのインクに触れたことで、私自身もその沼にどんどんハマっていきました。
最初に買ったのは「石丸文光堂/ゴッドファーザー」。「ゴッドファーザー」の映画が大好きだからという理由です(笑)。他に持っているものも「ペントノート/ほんとの星空」や「川崎文具店/いはばしる」といったネーミングにこだわりがあるもの。
「ペントノート」は、福島のお店なのですが、この色味は、福島の星空をイメージされているそう。祖父の家が東北にあることもあって、その背景にも惹かれました。
インクは各ショップが作るオリジナルの色味も素敵ですが、ネーミングや背景にある物語に触れると、よりおもしろさが伝わる気がします。
お気に入りの1本:LAMY/safari
ペン先を左利き用に加工してもらった1本。レトロでポップな“赤”も気に入っています。
PROFILE
白鶯繭子
日本出版販売株式会社勤務。書店の文具売り場での商品セレクトを提案する。本以外の文具フェアを任されることも。2018年から「文具女子博」の実行委員として主に「文具女子アワード」の運営などを担当。
文具女子博のスピンオフイベント開催!
■9月28日(水)~10月2日(日):
詳細は文具女子博公式サイト(https://
(取材・文/中山夏美 写真/Yoshimi)