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武田正和/酒屋・赤門店主「山形のお酒を求める人の橋渡しに」

万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第5回は、山形市七日町の酒屋「赤門」店主・武田正和さんです。

 

職業:酒屋「赤門」店主
保有万年筆:2本

お酒に添える“手紙”は、接客のひとつ

山形市の中心地・七日町で酒屋を営んでいます。創業は80年以上前。私は5代目です。山形に蔵元がある日本酒を中心に常時100種類ほど販売しています。

店を継ぐ前までは、山形の蔵元「出羽桜酒造」で16年ほど日本酒を造っていました。入社1年目に初めて出来たての日本酒を飲んで開眼。完成した当日にポタポタと滴り落ちる日本酒を柄杓ですくって飲んだ感動は忘れられません。それからいろんな日本酒を飲むようになり、山形県内で造られているお酒はほとんど飲んだことがあると思います。

山形は、米もとれますし、水もおいしいので日本酒を造る環境としてはかなり優位。全体的にフルーティーなお酒が多いように思っています。全国でも山形の日本酒は評判がいいですね。私が今、気に入っているのは、亀の井酒造の「くどき上手」かな。芳醇で旨甘口。とても飲みやすいです。

日本酒は杜氏と蔵人が手作業していることもあって、完成までの背景がおもしろいんです。お店に来てくださるお客様には、そういう蔵元のストーリーをできる限りお伝えしています。聞かれたら何でもお答えしたいですし「こういうのが飲みたい」と相談していただけたら、ピッタリのものをご提供できると自負しています。蔵元のちょっとした裏話とかも、ちょいちょい話したりしますよ(笑)。

今は、酒屋だけじゃなく、スーパーやコンビニでもお酒が買える時代です。わざわざ酒屋に来てくださるお客様はそれなりにお酒に対して熱量がある方。だからこそ、おひとりおひとり大切にしたいと思っています。スーパーなどでも「バイヤーおすすめ」と書いてある場合があると思いますが、具体的にどうおすすめなのかまではわからないこともありますよね。店員に聞いても、書いた本人がいなければ深くはわかりません。うちの店は、私がおすすめして、理由も私が説明しますので「何をもっておすすめなのか」をキチンとお伝えできます。

 

対面販売では、そういったお客様とのコミュニケーションを大事にしているのですが、通販では、そういうものが一切ないじゃないですか。無機質なことが通販の良さでもあるのかもしれませんが、対面販売に負けない売り方をしたいと思い、購入された方には必ず手書きの手紙を送っています。

通販を始めたのは約17年前。楽天市場がまだそこまで主流ではなかった頃だと思います。最初の1本が売れるまでに1か月ほどかかってしまい、売れたときにあまりにも嬉しくて、思わず手紙を書いたのが始まりです。

初めは、ボールペンで書いていたのですが、長いこと書いていたら指が痛くなってしまって。見かねた奥さんが万年筆を買ってくれました。どこのメーカーかは不明ですが、一気に書きやすくなったんですね。それがだいたい7年前かな。

書く量も増えてきて、もっとちゃんとした万年筆のほうがいいのでは、と奥さんがもう1本、万年筆を買ってくれて。5年前からはペリカンの「スーベレーンM600」を愛用しています。ボールペンを使っていたときは、指がへこむぐらい力を入れて書いていたのですが、万年筆を使うようになってから、手の力がほとんどいらなくなりました。

万年筆を使い始めたばかりのときには、季節でインクの色を変えてみたりしていたんですが、秋に紅葉をイメージして赤のインクを使っていたところ、レビューに「お手紙はうれしいのだけど、インクの色がね」とあって。調べてみると、赤のインクはお別れを意味するそうなんですね。これまで手紙を書いたことがなかったので、そういうルールも知らず。いやいや勉強になりました。それから季節でインクを変えるのはやめて、ブルーブラックをずっと使っています。

便箋はたくさん試してみましたが、満寿屋の「YUGA」に落ち着きました。行間、行数ともにちょうどよくて、これしか使っていません。店が休みの日曜日にまとめて手紙を書くこともあるので、革のペンケースに万年筆を入れています。 

うちは午前中に注文してくださった人はその日の発送という約束でやっているので、多い日には、1日で20〜30枚ぐらい手紙を書きます。だいたい11015分ぐらいで書いてしまいますが、午後はほとんど手紙に費やしていますね(笑)。内容は、初めての方には自己紹介や蔵元の情報を。リピーターの方には、近況を伺ったり、その方が好きそうなお酒を書いてみたり。メルマガとかもしていませんし、通販のやり方も素人。少しでもアフターケアができればと始めた手紙ですが、その効果があってか、レビューを書いてくださる方が増えて、それが集客へと繋がっています。17年続けて、やっと見えてきた部分はありますね。

万年筆に変えたことで、お客様によっては、万年筆でお返事を書いてくださる方もいます。「ボールペンで書いてたときは大変だったでしょう」と気にかけてくださる方も。リピーターの方の購入情報は、何年もストックしているので、顔は見えないけれど手紙が接客となって、お客様とコミュニケーションがとれているとは思っています。

レビューの言葉に励まされる

元々マメな性格ではないですし、通販への問い合わせメールに頻繁に返事ができるほうではないんです。だけど手紙は17年続いています。不思議ですよね。それにはやはり喜んでくださるお客様がいることが大きい。サイトのレビューに感謝の言葉が綴られると、嬉しくなります。他のサイトと差別化して売るためには、価格を安くしたり、ポイントをたくさんつけるという方法もあります。でもそれでは利益が少ない。だからこそ、お客様のレビューは感謝しかないんです。手紙は書いても書いても字はうまくなりません(笑)。だけど、少しでもお客様に山形のお酒の良さが伝われば、と思います。

 お気に入りの1本:ペリカン/スーベレーンM600

少し短いサイズが手にフィットして書きやすいです。EFといういちばん細いペン先の太さが手紙にはちょうどいい。

PROFILE

武田正和

山形市七日町にある酒屋「赤門」の店主。山形の日本酒を中心に販売。商品のセレクトもすべて行なっている。蔵元で蔵人(日本酒を造る人)を16年やっていた経験があり、山形の酒を熟知している。

赤門楽天市場:https://www.rakuten.co.jp/akamon2/

 

(取材・文/中山夏美 写真/長岡信之介)

 

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