Shin Calligraphy/カリグラファー「手と脳と目が喜ぶ楽しい時間を過ごしたい」
万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第28回は、カリグラファーのShinさんです。
職業:カリグラファー
保有万年筆:400本以上
カリグラフィーで新しい世界が開けた
子どもの頃から書くことが好きでした。 2007年にカリグラフィーに出会い、より深い部分を学びたいと思って、カリグラフィーの教室に通い始めました。 海外のカリグラファーの方のワークショップにも参加して、現在も学び続けています。
「カリグラフィー」はギリシャ語で「美しく書く」という意味を持っています。 その歴史は古く、元になっているものはローマ時代に使われていた文字とも言われています。西洋や中東で文字を美しく見せる手法のひとつであり、日本でいうと書道にあたるものです。
私は韓国の出身です。1999年から北海道札幌市に住んでいます。それから韓国の書道や日本の書道も学びました。2020年からは札幌で万年筆で楽しむカリグラフィー教室を開催しています。
カリグラフィーは、書体によって文字の形も書く角度も違います。基本はつけペンを使うのですが、それ以外のさまざまな道具で楽しく文字を書くこともできます。
私は、好きな道具を使って表現することが手書きの醍醐味だと思っています。海外のカリグラファーには万年筆で文字を書く方も多く、 私も万年筆の字幅に合う文字をきれいに書くことや表現することがとくに好きです。 なので、「万年筆で楽しむカリグラフィー」を広めたいと思っています。
初めての万年筆は父親からのプレゼント
私の万年筆ライフは、もう40年近くになります。中学生の頃、父親が海外出張のお土産に買ってきてくれたのがきっかけでした。
書くのが好きなことを父も知っていたので、ボールペンとペンと万年筆がセットになっているものをお土産にしてくれたんだと思います。
中学生のときは、万年筆の使い方や書き方も分からずインクの入れ方も知らなかったけれど、実際に書いてみると楽しい(笑)。 携帯電話もなかった時代でしたので、お友達にたくさんお手紙を書いて送っていました。
この万年筆のインクはカートリッジ式なんですが、その頃は使い方もわからない……。インクがなくなったら、カートリッジにインクを一滴ずつスポイトで入れていました。そのようなことも今思えば楽しい時間でした。
緑のインクを買ってきてお手紙を書いて送っていましたが、 大人になってから緑色で書いたお手紙はお別れの意味だと知ってビックリ。そんなことを知る由もなく、緑のインクを好んでいました。
この万年筆は未だに現役で、カリグラフィー教室の添削用のペンとして大活躍しています(笑)。一度ペン先が折れてしまい、文具店に持っていくと「同じペン先はありません」と言われたのですが、文具店で合うペン先を探してくださって、今も大切に使っています。
愛は深まる一方です
高校生の頃には、もっといろいろな万年筆を使ってみたいと思うようになり、少しずつ万年筆の本数が増えていきました。 仕事では、特殊ペン先の万年筆を書き方のレクチャーやデモンストレーションに使っています。気が付くと万年筆は400本を超えていました!
あるお医者さまに伺ったのですが、患者さんのリハビリとして万年筆をおすすめしているのだそう。年を重ね、徐々に握力が弱くなっても、スラスラと書ける万年筆は私にとってありがたい存在になっています。万年筆は力を入れなくても書けますから、一生使い続けられる気がしています。 書き味というのは手と脳が覚えていて、書いたものは目と脳で理解するもの。これからも手と脳と目が喜ぶ楽しい時間を過ごしたいと思います。
「DOMINANT INDUSTRY」社に依頼して、Shinオリジナルインク「青蛾(SEIGA)」を作らせていただきました。青蛾とは美しい眉を指す言葉で、美しい青色の顔料インクに、バランス良く数種のラメを配合したつけペン専用のインクです。何度も色を調整してもらい、この色に決めるまで1年かかったんですよ。
カリグラフィーインクとの出会いは、2009年に夫が海外出張先の店頭で勧められたインクを1本買ってきてくれたことでした。そのインクは「ROHRER&KLINGNER」のアクリルインクで、使用すると、驚くほど滑らかで書き味がすばらしい。 今でもお気に入りです。
「好きなことを楽しむ」そんな空間を作りたい
コロナ禍で一旦、お休みしていた教室も今は再開しています。 文字が好きな人、書くことが好きな人、インクが好きな人と語り合ったり、 試してみたり、意見交換をしながら楽しい学び場にしたいと思い、日々活動をしています。
これからは、カリグラフィーの文字だけではなく自分の「好き」を共有できる勉強会が出来たらいいなと考えています。 「カリグラフィーがしたい」と思うけれど、どうすればいいのか分からない方は、どんな文字を書きたいのかを考えて教室に通い、体験してみるのも良いと思います。それから、正しく練習するのが大事です。
お気に入りの1本:モンブラン/マイスターシュテュック 149 カリグラフィー カーブド ニブ
カリグラフィー用の万年筆で、書き味が格段に良いです。ペンを持つ角度や向きによって様々な書き方が実現出来ます。
PROFILE
北海道札幌市を中心に活躍するカリグラファー。万年筆愛好家。「万年筆で書くカリグラフィー」 。教室も主催。各地文具店、百貨店、ペンショー等でデモンストレーションやワークショップを開催している。カリグラフィーパッドfifty-twoや、『青蛾』水性顔料インクなどのオリジナルインクも手掛ける。
Instagram:@shin_calligraphy