
たけちよ/ジャーナルアーティスト「書くことは呼吸に等しいです」
万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第31回は、システム手帳を宝箱のように愛用するジャーナルアーティストのたけちよさんです。
職業:ジャーナルアーティスト
保有万年筆:約50本
授業の板書も万年筆を使っていました
ーーーたけちよさんと言えば、システム手帳ですよね。日々SNSに投稿されているシステム手帳のページには工夫が詰め込まれていると感じます。万年筆を使われていることがあるようですが、たけちよさんと万年筆の出会いは、いつですか?
「大学生のときです。ある先生が”美しい日本語を書くには鉛筆か万年筆を使いなさい”とおっしゃっていて、その言葉が気になって万年筆を買ってみたのがきっかけでした。100円ショップなどで売っているものは手にとったことがあったけれど、ちゃんとした万年筆はそれまで触ったことがありませんでした。最初だからカジュアルなものがいいと思って「LAMY/LAMYアルスター」を購入して、その後すぐに「safari」も購入しました」
ーーー先生の言葉を聞いて万年筆を買ったのは、きれいな字を書きたいという気持ちがあったからですか?
「先生が鉛筆と万年筆は書いたときの文字に濃淡が出やすいとおしゃっていました。鉛筆はインクではないですが、トメ、ハネ、ハライの違いで濃淡出るじゃないですか。だから、シャープペンやボールペンよりもきれいな日本語が書けると教えてくれました。その教えが響いたんですよね。先生が万年筆のことをおっしゃってなかったら、使っていなかったかもしれないです」
ーーー先生の言葉が影響を与えたんですね。万年筆は主に何用として使われていたんですか?
「万年筆を買ってからは、板書を全部万年筆で書いていました。ものすごい量を書くので、すぐインクが終わっちゃって(笑)。ペンケースの中には常にカートリッジを2本入れてましたよ」
ーーー板書にも万年筆を使っていたんですね!
「字幅EF(極細字)を購入していたんですが、不慣れなこともあってみるみるペン先が削れていき、最終的には軸は割れて、字幅がM(中字)ぐらいになっていました。一語一句逃さず書いていたせいですね(笑)。書くのが楽しかったのもあります。強烈な出会いでした」
ーーーやはり他のペンとは書き味が違いますか?
「万年筆を使う前までは、ボールペンで板書をとっていたのですが、筆圧が強めなこともあって1時間の授業が終わる度に手が痛くなっていました。私、テスト用紙に穴を開けるぐらいの筆圧なんですよ(笑)。それこそ慢性的な腱鞘炎になるほどで。万年筆にしてからは、力を入れずにサラサラと書けるようになり、手も痛くなりにくくなりました。それは最大の魅力ですね。共に使うインクや軸のバリエーションも豊富ですし、素材もさまざまな種類があります。メーカーによって書き味も違いますよね。自分に合う万年筆がどれなのかを探すのも冒険のようで楽しいですし、魅力は無限にあります」
ーーー筆圧がなくても書けるのは、万年筆の特徴ですよね。最初に買った万年筆の字幅はEFということですが、今も細字派ですか?
「ずっとEF(極細)やF(細字)しか使っていなかったんですが、最近のお気に入りは『プラチナ/#3776 ミュージック・ニブ」なんですよ。昨年、八文字屋さんのイベントでntさん(全国で万年筆の出張販売イベントを開催している)にお会いして、おすすめされたセーラーの長刀研ぎ万年筆を試し書きしたら『断然太字!』となりました。そのときから太字もったり系の新たな扉が開きましたね。中字以上の万年筆は、圏外だったのに今はストライクゾーンに入っています」
ーーーまさか、八文字屋のイベントでの出会いが!軸が黒の万年筆が多いのは、少し意外でした。
「それ、めっちゃ言われます(笑)。絶対、柄物が好きだろうって思われるんですけど、万年筆も手帳も、実は黒や茶色が多いんですよ。持ち主が派手めなので、使っているものはシックにいきたいんだと思います(笑)」
自分のスタイルがあるようで、実はないんです
ーーーSNSに投稿されているシステム手帳の内容は、中身もしっかり読めますよね。書くときは「見られてもいいもの」にしているんですか?
「よく公開しているものの他にプライベート用の手帳があるんじゃないのかって聞かれることがありますが、分けていません。ブログ世代、SNSが当たり前世代なので、見られることに対して、抵抗感はゼロに近いです。仕事の内容を書いているものは、さすがに見せられないんですけど、それ以外は全部見せていますね。見てくれている人たちに対しての意識がないから続けられるんだと思います。画面の向こう側の反応を意識しすぎるといつか苦しくなるので、私のSNSはいつも自然体です。解釈はご自由に〜と思って投稿しています」
ーーーそうなんですね!投稿されているものを見ると、本当に何でも文字にして残しているなって印象があります。
「めちゃくちゃメモ魔なんです。一人暮らしを始めたときにも、何月何日の何時何分に、この業者が来た、ガス点検の人が来たとか、メモをとっているので、別の日に同じ業者が来たときに『前回は◯月◯日に来ました』と伝えて、驚かれたこともあります(笑)。子どものときから絵や字を書くのが好きで、外遊びより家で何かを書いていたい派でした。書く仕事がずっとしたいと思っていましたし、書く道具もその頃から好きでしたね」
ーーーずっとアナログ派なんですか?
「iPadとApple Pencilが発売されたときに、デジタルで書くことにハマった時期もあったんですよ。デジタルのほうが写真もコラージュしやすいですし、ペンの種類も簡単に選べますし。でも、なんとなく書いていても内容が記憶に残らなくて。アナログだと紙によって書き心地が違いますし、書くときの音もペンによって違う。紙のニオイやインクのニオイで五感を刺激している分、記憶に残りやすいんだと思います。デジタルは、いくらその中でペンや色を変えてもどこか一辺倒な感じがしてしまいます。便利ではあるんですが、結局アナログに戻りました。ただ、SNSには写真にデジタルで落書きしたものもよく載せています。活字で文字入れをしたほうが見やすいのは百も承知ですが、”手で書く”ことはやめられないですね」
ーーー字の練習をすることもありますか?
「小学生のときに、いろんな人の文字を真似していました。当時、ファッション誌にモデルさんや芸能人の直筆あいうえお表が載っていて、それを見本にしたりも。まっすぐ線を書く練習や研究をしていました。今も使う万年筆で字体を変えていて、それは小学生のときに研究していた結果が実を結んでいるんだと思います」
ーーー確かに、使われているペンによって文字の印象は変わって見えます。
「スタイルがあるようでないんだと思います。これまでいろんなものを読んだり、見てきた結果のゴールが今なわけですが、明日の私の好みがどうなっているのかは私自身にもわかりません(笑)。変化が激しいからこそ毎日書きたいことで溢れているのかもしれません」
ーーー書きたいことが毎日あるのもすごいです。
「書くことが見つからない日はないですね。例えば、何もない1日だったとしたら、そのことを書いちゃってます。『今日は何もしていない。寝てゲームをやっただけじゃん』みたいな(笑)。手帳のサンプルで掲載されているものって、すっごくちゃんとした日記じゃないですか。文章も字も美しいですし。憧れはしますけど、私には合わない。なので、そんなこと気にしなくていいと思いますよ。私は漢字を間違えたら『この漢字は間違えていますが、本当はこれです、続けます』って書いて、そのまま書き進めちゃったりします。つまり、めちゃくちゃ自由です。ウィークリー手帳とか、見開きで一週間なのに、2日で終わったこともあります(笑)」
ーーーすごく自由(笑)。続けるコツとして、カタチにハメすぎないというのはあるのかもしれないですね。
「そうそう。SNSを見て『この人のやり方、すごくかわいい〜』とは思うけど、すべてを取り入れることはないかも。お手本にするのはいいと思いますが、自分の心地いいやり方を探すほうが続くと思いますよ。書き方もその都度変えていってOK!そうしていくうちに自分のスタイルが見つかると思います」
嫌な気分の内容はローマ字で書きます
ーーー並行で使っている手帳は何冊ですか?
「今は3冊ですね。大事なスケジュールを書いているのが1冊と、残りの2冊はお菓子の紙や化粧品、シールのパッケージとかを貼ってみたり、おおよそ生活には関係ないものを記録することに使っています」
ーーー1年で3冊を使い切るんですか?
「いや、とじ手帳の場合は2週間に1冊使い切ったりもします(笑)。小さいサイズを使ったら、その反動で次は大きいサイズにすることもあります。システム手帳の場合、サイズを変えるということは、リフィルもすべて変えなくちゃいけないんですが、私はそういう作業は全く苦になりません。逆に再構築するのが楽しみすぎて。また新しい手帳に書いていけるなんて!とウキウキします」
ーーーそのペースですと相当な数の手帳が溜まっていくと思いますが、すべてとってあるんですか?
「小学生のときからの手帳をとっておいた時期もありました。でも重たいし、かさばるから、一度断捨離してからは捨てることにしました。常に今が最高!と思うので、過去の手帳を振り返ることはありません。ちなみに、使ってないリフィルは、多分お店3店舗分ぐらいはあります!」
ーーー3店舗分(笑)。「今が最高」と思えるマインド、素晴らしいです。
「もちろんマイナスな感情もあります。でも、消化できない感情を紙に残しておいて、それを読んだ未来の自分が嫌な気持ちになるのって嫌じゃないですか。だから、そういうときは石川啄木方式でローマ字で書いてます(石川啄木はローマ字で日記を綴っていた。書籍化もされている)。ローマ字だと、何が書いてあるのか、一発ではわからないじゃないですか。書くのも面倒だし、読み返すのも面倒。できるだけ、自分がご機嫌でいられるように工夫したいですよね」
書き続けるために筋トレもします
ーーーお話を伺って改めて、たけちよさんの「書くことへの愛」を感じました。
「ハマったら、ある意味で一途。多趣味な人間なので、そのときの『やりたい』で新しいことを始めちゃったりもするんですが、書くことは子どもの頃から変わらない趣味です。もはや書くことは呼吸に等しい。なくすことはできない存在です。手帳は、ころころ変えて浮気性ではありますが(笑)」
ーーーこれから挑戦したいことはありますか?
「ずっと書き続けていきたいので、まずは体力づくりですね。40歳以降は筋トレを本格的に始めて、ずっとアクティブに動けるようにしたいと思っています。これからもそのときの『楽しい』を追求していくので、1年後はどうなっているのか、私自身もこれからの自分が楽しみです。90歳くらいになったら手の動きを良くするためにeスポーツの世界にいいたりして。となると、今から指トレーニングも始めたほうがいいのかな?(笑)。ということで、書き続けるための運動を頑張りたいと思います」
お気に入りの1本:プラチナ/センチュリー #3776 ミュージック
ntさんにおすすめいただいてから、中字に目覚めました。たくさん書くので、インクを入れてもすぐなくなります。
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