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向井善昭/アシュフォード ブランディング・製品企画「システム手帳は自分の楽しいが詰まっている」

1986年からシステム手帳のカバーやリフィルを販売する日本ブランド「アシュフォード」で製品企画などを担う向井善昭さんに、システム手帳の魅力についてお話を伺いました。

システム手帳デビューを考えている方、さらに詳しい使い方を知りたい方に、耳寄りな情報をお届けします!

向井善昭さん

アシュフォードのブランディング・製品企画の責任者。「システム手帳ドクター」とも呼ばれ、全国の書店や文具店でイベントを行なう。アシュフォードのオリジナルサイズ「HB×WA5」の企画者でもある。

システム手帳は「かわいいを集める場所」

ーーアシュフォードが誕生した1986年は、システム手帳はどんな存在だったんでしょうか。

「アシュフォードが設立した時代は、バブル期が始まった頃でした。システム手帳を持った男性がスーツを着て銀座の町を闊歩する。それがやたらとかっこいいと注目されていました。トレンディドラマなんかでも度々そういう姿が登場していて、日本でシステム手帳が第一次ブームを迎えていましたね」

ーー当時は、ビジネスマンが仕事で使うのが主流だったんですね。

「そうです。今はビジネスシーンでスマホを使われる方が多いと思いますが、その役割をシステム手帳が担っていました。スケジュールはもちろん、アドレス帳、路線図、白地図は必ず入っているリフィルでした。「白地図」は最近では聞き慣れない言葉かもしれないですが、行く場所をマークして駅からの経路を書いておくリフィルとして重宝していたんです。今はGoogle MAPを使いますが、当時はそんなアナログなやり方をしていました。アドレス帳によく行くお店の番号も入れていたり、経路図にいたっては、2000年代でもまだまだ現役でしたね」

ーースマホが普及し始めて、システム手帳の用途は変わってきたんでしょうか。

「僕が入社した20年前にシステム手帳はダウントレンドに入っていました。それでもまだまだ需要はあって、ビジネスシーンで使う人が多かったですね。ビジネスマンが8割で残りの2割が趣味の利用ってところかな。しかし今は、それが逆転して趣味で使う女性が9割でビジネスマンは1割ほどという比率になっています」

ーー趣味で使われる人が増えているんですね!

「2010年に僕が企画をして『HB×WA5』という新しいサイズのシステム手帳を発売しました。A5サイズの正方形なんですが、これが女性ユーザーに受け入れられたのが大きいです。たっぷり書けるサイズ感と正方形というのが注目された理由だと思います」

ーーなぜ、そのサイズに注目が?

「システム手帳の最大の魅力は、カバーもリフィルも自分で選んで編集できること。その機能に気付いたクリエイティブ女子たちがデコレーションしたライフログのページをSNSで発信し始めたんです。同時に文房具ブームも訪れ、ペンやマスキングテープなどのかわいいアイテムを使って賑やかに書きたい人も増えました。ビジネスでスケジュールを見るだけの無機質なものから、あとから自分で見返したくなるような『かわいいを集める場所』に変わった。『開くと自分の楽しいが詰まっている本』というイメージに近いかもしれません。これは大きな変化でした」

リフィルを変えれば自由自在

ーー先ほども言われていましたが、システム手帳の魅力はリフィルを自分流に組み替えられることですよね。向井さんは、どんな使い方をされているんですか?

「僕はシステム手帳を2冊使っています。1冊はM6と呼ばれる手のひらサイズのもの。月間のダイアリーを過去3年分ぐらい入れています。会議のときなどに去年の同じ時期に何をしたか確認する機会も多いですし、売上の前年比の確認にも使います。PCで調べてもいいのですが、それより1冊にまとまっているほうが断然楽ですよね」

ーーダイアリー以外は、どんな利用ですか?

「あとは見開き1ページに1日のTODOリストを書いています。仕事が終わったら消すという習慣をつけていて、終わってない場合は翌日なのか、数日後なのか、未来の自分にアポイントを入れ直すかのようにスケジュールを書いておきます。もうひとつ使っているM5サイズは、胸ポケットにも入るコンパクトなもので、書き留めるというよりメモ帳という感じ。パパッと思ったことを書いておくために使っています」

ーーリフィルは、他メーカーのものを使ったりするんですか?

「それがシステム手帳のいいところですよ。それぞれのメーカーでこだわりの紙質もあるし、デザイン、フォーマット、フォントも違います。ダイアリーはアシュフォードだけど、ノートはKNOXがいいよねとか。買ってみて合わなければ一度取り外して、違うものを使ってもいい。また使いたいと思えば再開もできますしね。システム手帳の懐はだいぶ広い。その自由さが沼の入口です。ちなみに僕が入れている製品資料のリフィルは、適当にプリントアウトしてM6のサイズに合わせて切って穴を開けたものです(笑)。ピッチリサイズを設定している方もいると思いますが、適当でもOKですよ。ポーチ系もあるので、それには財布には入れておけない会社のクレジットカードなどを入れています」

ーー中身を工夫できる楽しみは、閉じ手帳とはまったく違う魅力ですね。では、一番売れているのは、どのサイズですか?

「アシュフォードでは5サイズを展開しています。一番大きいのがA5サイズ。これは持ち歩くというより家や会社に置いて使う人が多いです。 先ほど言っていたHB×WA5もノートに近く、どちらもしっかり書いて見返す用というイメージ。あとは僕が使っているM6とM5のコンパクトなタイプ。最後のひとつが一番売れているバイブルサイズです。初めてイギリスから日本にシステム手帳の文化がやってきたときも、このサイズでした」

ーーバイブルサイズを使われている人が多いんですね。

「リフィルの種類も多いですし、メモにもノートにもなり、持ち運びにも適しています。世界共通でいうと、A5サイズ、バイブルサイズ、M6 かな。この3種類は海外のリフィルでも使えます。でも実はシステム手帳のカルチャーは日本が最先端。カバーもリフィルも日本の種類が多いので、海外の方で買われる方も注目多いんですよ」

 

ライフスタイルを整えるアイテムとして人気は続く

ーー今後、システム手帳はどう変化していきそうですか?

「そうですね、システム手帳は万年筆と共に『心の筆記具』だと思っています。10万円もする万年筆じゃなくてもいい。2万円もするシステム手帳カバーじゃなくてもいい。だけど、それを使うことに自分として価値を感じられる。心を満たすことができる筆記具ということに惹かれている方が多いアイテムです。我々はそこをもっと大事にしていきたいと考えます。革製品を使う喜びやレザーケアをする優雅な時間。愛着のある筆記具を育てていくおもしろさを提案していきたいですね。システム手帳のブームは、革のカバーを使っている人がかっこいいというスタイルから入ったと思うんです。基本に立ち戻って、新しいユーザーを捕まえたい。カルチャーを作っていきたいと思っています」

 

 (文・取材/中山夏美)

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