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金曜日の文具(第37回/蓮見恭子のメディコ・ペンナ)

万年筆店を舞台にした小説『メディコ・ペンナ 万年筆よろず相談』(蓮見恭子・著)をOnlineStoreに追加しました。

神戸の奥まった一角に佇む、ミニチュアの洋館のような「メディコ・ペンナ」。

イタリア語で「ペンのお医者さん」を意味するこのお店は、万年筆の販売だけでなく、顧客の要望や書き癖に応じてペン先の修理や誂えも請け負う専門店。

年齢不詳の店長はぶっきらぼうですが調整師としての腕は確か。「知る人ぞ知る」店には愛好家が集います。

就職活動がうまくいかず、自分を見失っていた大学生の砂羽は、万年筆にさしたる興味がないものの、「あなたの人生が変わります」という「メディコ・ペンナ」の看板に惹かれて訪店。紆余曲折をへてアルバイとして雇われることに。

砂羽同様、さまざまな悩みや事情を抱えて店を訪れる人々と接するなかで、彼女もまた、少しずつ自分自身の問題と向き合い直すようになっていきます。 


あらゆる〈もの〉がそうですが、とりわけ万年筆は、使う人の物語を背負いこんでいる道具だと思います。

このペーパーレス化が進む時代に手書きで、メンテナンスに手間ひまがかかり、低価格モデルですらほかの筆記具にくらべて高額。

どれをとっても、そこには「なぜ使うのか」「好きなのか」「買ったのか」という問いが存在します。そして、それに対する、その人だけの答えも。

小説に登場する万年筆調整師は、様々なワケあり来客者たちの内情を、使い込まれたペン先の状態や筆記された文字を通じて読み解き、そっと解決に導いていくのです。

万年筆が、持ち主のバックボーンが(物理的にも)刻まれているアイテムゆえ、「彼らはいったいなぜ店にやってきたのか」「何の万年筆をどのように使っているのか」という「調整師による謎解き」の構成が成立しています。 

持ち主のストーリーを宿す道具として万年筆をとらえた精緻な筆致と、それをコージー・ミステリのモチーフとして扱うユニークさに惹かれ、するすると読了していまいました。

(コージー・ミステリは推理小説のジャンルのひとつ。日本では、隠れ家的な店を舞台に、変わり者の店主が仕事上の蘊蓄をまじえながら訪問客の問題を解決するライトな推理小説として隆盛。『ビブリア古書堂の事件手帖』などを思い浮かべていただければ)

物語は砂羽をはじめ、万年筆をまったく使ったことがない、もしくは精通してない人物の視点を借りて語られます。万年筆入門を物語の形式で追体験できるため、初心者の人がさらに万年筆の世界に深く入っていく手引きにもなるのではないでしょうか。

逆に愛好家の人は、あるある(もしくは「いるいるこういう人」)的な共感を随所に得られるでしょうし、実在する文具イベントや販売店の名前が絶妙(?)な感じでボカされていることに苦笑いするかもしれません。

土地勘がないのでわかりませんが、神戸の街並みも実景に忠実なのではないかと思われ、旧居留地、トアロード、パールストリートなど、神戸の異国情緒あふれる名所や店々が細やかに描かれているのも魅力です。


カバーをはずした表紙のデザイン。

ペン先のイラスト、筆記体のタイトルに飾り枠と、文具店の紙袋やギフト包装紙のよう。

紙はエンボスが施されていて独特の手ざわりが楽しめます。題材が題材なだけに、こういう〈もの〉としてのこだわりも嬉しいポイントです。

 

メディコ・ペンナ 万年筆よろず相談

¥1,760

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