長谷部雅一/アウトドアプロデューサー「人と自然が正しく繋がる体験を提供していきたい」
万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第19回は、アウトドアプロデューサーの長谷部雅一さんです。
保有万年筆:1本
山登りや旅は、冒険に近い
僕にとってアウトドアは子供の頃から当たり前にあったものです。ボーイスカウトに入っていたのが大きいとは思いますが、友達と秘密基地を作るのだって自然遊びのひとつだろうし、近所に自転車で冒険に行くとか、そういうことをずっと続けてきました。
中学のときには、友達と実家がある埼玉から新潟の佐渡島まで自転車で行ったことがあります。「佐渡島で金が採れるらしいぞ」と誰かが聞いてきて、億万長者を目指して行ったんです(笑)。
友達が持っていたテントで泊まりながら、大変な思いで佐渡島に行くと、金が採れるところは入場料が1500円もいることがわかって。お金をとられたうえにホコリみたいな金がチョロっと出ただけ。あっけなく夢は破れたわけです(笑)。
ボーイスカウトでは山岳会に入っている山ヤ(山登りが好きな人)の方と出会いました。僕が「連れて行ってくれ」ってせがむものだから、その山の師匠は「面倒くさい」と言いながらも高い山にいくつも連れて行ってくれて。槍ヶ岳や剱岳など夏休みを利用して長い山行に行ったり、冬山にも行きました。装備は安物だったけど、10代は体力がありますからね。高い山もガンガン登れるんですよ。山登りや旅って冒険をしている感じがあって、まだ見ぬ世界に行けることにワクワクしていたんだと思います。
大学を卒業した次の日から世界旅行へ
大学生のときには、パンクと古着が好きという理由でアメリカに留学。ワシントン州に1年弱いました。マウントレーニア国立公園でスノーボードをしたり、街でスケートボードをしたり。山登りもキャンプも行けるし、パンクも古着も買い放題。楽しかったですね。
僕が大学生の頃は、原宿に古着屋が多かった時代。セカンドショップでTシャツやジーンズを50セントとか1ドルで買って知り合いの古着屋の人に売り、資金を貯めてアメリカ一周の旅に行きました。国立公園を周りながら約2か月かけて旅を。
圧倒されるほどの自然と出会い、それはそれは衝撃的な旅だったのを覚えています。アメリカをひとりで周ったんだから、世界一周も行けるんじゃないかって思って(笑)。大学を卒業した次の日から世界旅行に行きました。
高校生のときだったと思うんですが、世界史の先生に遺跡について質問をしたとき、教科書に載ってないことはあり得ないんだって言われたことがあって。でもその先生は、その遺跡を実際に見たことがないのに「ない」と言っていました。そのとき、こんな大人にはなりたくないって思いました。自分は、実際に見たものだけを語ろうって思ったんです。本物を見ていたら、教科書とは違うことがあるかもしれない。何かを語るんだったら、ちゃんと自分が体験したことじゃないと嫌だなって感じていました。だから世界旅行に出たいと思ったんです。
今も専門にしている「環境教育」にはずっと興味はありました。だけど、僕は変な人間だからゴミ拾い活動とかはなんか抵抗があって。どこかで「それやっている自分が素敵」と思っていそうだと感じて、ずっと腑に落ちませんでした。
でも、キリマンジャロを登ったあとかな。南アフリカのケープタウンに滞在しているときにBARで仲良くなったやつが、突然、空き缶をいくつもポケットにいれて店に入ってきて。なんで空き缶を入れているのかを聞いたら、彼女に子供ができたからだって言うんですよ。
「ここは本当に酷い場所で、犯罪も多いし、政治も良くない。俺自体も最低な人間だし、そんな状況で子供が育ったら、俺のようになってしまう。だけど金もないし、地位もないし、学もない俺ができることと言ったら、空き缶を拾うぐらいなんだよ」って言ったんです。
彼女のお腹にいる子供のためにできることを考えた行動が、だいぶ外側にあるはずだった人が捨てた空き缶を拾う行為だった。それってものすごく素直な行動だなって。彼に起きたひとつの変化で人が環境を変えようと動くことっていいなと思ったんです。その彼の行動を見て僕ができる手段で、環境教育を教えることができるのではないかと思いました。
自然遊びを通して自然との関わりを伝えていきたい
僕の現在の肩書きは、「アウトドアプロデューサー」です。環境教育を軸としたアウトドアイベントの主催がメインの仕事。それ以外に、新しくキャンプ場をオープンするときの相談役やブランドと共に商品企画をすることもあります。
アウトドアに関わることは何でもするのが僕のスタンス。ただ、人と自然と社会が正しく繋がることを前提とした企画でなければ、賛同はしません。話を伺ったときに、自然破壊に通じるものであったり、それを行なうことで、どこかにしわ寄せがきて誰かが不幸せになる案件は受けないと決めています。
自分を取り巻くすべての環境を保全しながら、人も自然も幸せになっていくためには、どうしたらいいかというのは常に大事にしています。それを体験しながら学んでもらうために、僕が得意とする自然遊びをベースに、伝えていきたいというのがこの仕事を続けている理由です。
情報共有とアイデアは手書きで残す
商品開発であったり、企画を考えることが多いので、アイデアノートは常に持っています。でも本当は書くのが面倒くさい(笑)。その気分を上げるために万年筆を使っています。書く行為自体を楽しくしたかったんですね。常に使うペンとして、万年筆がいつも作業机にコロンと転がっています。
打ち合わせでは、情報を正確に共有するために手書きで要件をまとめています。A4の紙を真ん中に置いて、字だけでなく、グラフや絵も書いて説明をします。そのときに万年筆を使うと、みんなに注目されやすい。普通のペンより、ちょっと気になるんでしょうね。
それぞれがパソコンを広げて自分用に要件をまとめると、その人の考え方で微妙にニュアンスが変わっちゃうことがあります。イメージ共有したつもりが全然共有できてないときもあって。1枚の紙で共有していければ、みんなが同じものを見ているので、そのズレが生じないんです。
同じ熱量で進めていきたいときは、目の前で書いていくほうが伝わるし、最終的に写真で撮ってデジタルでストックしておくとか、そうやって使うこともできます。
愛用している「LAMY/サファリ」は、もう10年使っています。万年筆はペンにしては高いかもしれないけれど「ずっと使えるもの」を手にしている感覚っていいですよね。
近年、アウトドアがブームになってファッション化していることを危惧していて。せっかくいいカタチでアウトドアの良さを感じる人が増えているのに、ファッション化されたことで消費されるカルチャーにはなってしまう恐れがある。そこを調整していくことも、僕たちの役目のように考えています。
お気に入りの1本:LAMY/サファリ
カタチも好きですし「サファリ」という名前も気に入っています。10年ほど前に東急ハンズに立ち寄ったときに、ふと目について思わず買いました。
PROFILE
長谷部雅一
アウトドアプロデューサー。環境教育などに関するアウトドアイベントなどを企画運営する「BEACON」主宰。そのほかキャンプ場のコンサルティングや商品ブランディングなども行なう。アウトドアの著書も多数出版。
(取材・文/中山夏美)