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菅未里/文具ソムリエール「好きな言葉を書くときには万年筆を」

 万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第15回は、文具ソムリエールの菅未里さんです。

 

職業:文具ソムリエール
保有万年筆:把握していない

文房具はコミュニケーションツールになる

文房具っておもしろいと思ったのはクラスメイトとの会話でした。小学4年生のときに集めていた「おもしろ消しゴム」を見たクラスメイトが「なにこれ!」って話しかけてくれて。「文房具って人と話すきっかけになるんだ」って思ったんです。元々内向的なこともあって、趣味で集めていた消しゴムにクラスメイトが反応してくれたことが嬉しかったんでしょうね。

文房具を好きになるきっかけってギミックだったりすることが多いと思うんですけど、私は「コミュニケーションツールになる」という、ちょっとイレギュラーな入り方でした。

その頃は、お手紙交換も好きでレターセットも集めていました。ディズニーストアで買った「101匹わんちゃん」のレターセットがかわいすぎて、使いたいけど使えなくて友達に見せるためだけに持って行ったことも(笑)。実は今でも、当時気に入っていたレターセットは1セットずつクリアファイルに入れて保存してあるんです。

集めていたものでいうと「ぺんてる/ハイブリッド(絹物語)」(現在は廃盤)もあります。私が復刻して欲しいペン、ナンバーワンです。小学生にとっては1本の値段が普通のペンよりも少し高くて全色一気には買えず、1本1本大事に集めていたことを覚えています。

文房具を仕事にするために雑誌に売り込む

私が就職活動をしていた年は、ギリギリ1社受かればいいと言われる苦しい時代。その中で就職するならば、興味があるものがいいと思い、文房具に関われるものを探していました。特定のメーカーの文房具が好きだったのではなく「文房具全体」が好きだったためメーカーに縛られることなく文房具を提案できる小売店を選択。就職難なこともあり他の業種も受けましたが、やっぱり最終面接まで残ったのは本心を伝えたところでした。好きな気持ちは伝わりますね。

大型雑貨店に就職して文房具の部署に行けるかと思いきや、生活家電の担当に。第一希望のステーショナリーの部署に異動するためには、会社にその部署に必要だと思わせる説得材料がいると考え、個人で雑誌に売り込みました。『日経ビジネスアソシエ』(現在は休刊)で年に3、4回文具術という特集があり、そこに採用してもらいました。手帳の中身やノートの使い方を紹介する読者投稿のような企画ですね。それを会社の文房具担当者が見てくれて、声をかけてもらえました。

人と話すきっかけをまとめた「ネタ帳」を書いている

雑誌で掲載させていただいた「文具術」では、主にノートの使い方を紹介していました。私は話をするのが得意ではなく、会話のきっかけを書き留めておく「ネタ帳」を大学生のときから作っています。考えていたことや心に残った言葉、読んだ本以外にアンパンマンの小ネタとかも(笑)。それは今も続いていて、過去のものを見返すこともあります。

なぜアナログかというと、スマホのメモは見返さないからです。スマホにメモする時の自由度の低さも苦手なんですね。横にキレイに書けるのはいいんですけど、縦読みで書き足したくてもできないですし、数日後に書き足したものは違う色にして区別したいのに、それも気軽ではない。圧倒的に手書きのほうが楽だと感じています。

家で落ち着いて書くときには万年筆を使います。とくに好きな言葉を書くときには万年筆が多いかもしれません。

万年筆を使い始めたのは、大学のときに友人が「LAMY/サファリ」をプレゼントしてくれたことでした。万年筆って普通の文房具よりは高級ですし、ハマったら危険な世界だと思っていたので控えていたのですが、いただいたことを機に解禁。そこからすぐに自分でも購入して、使い始めました。

持っている万年筆の数は多いですが、だいたい6本ぐらいにインクを入れて気分で使い分けています。「クロス/ピアレス125」、「モンブラン/マイスターシュテュック ドゥエ ジオメトリー クラシック」、「PILOT/キャップレス」の3本は、とくに気に入っていてほぼ固定ですね。

ノート、ペン、シャープペンの芯まで商品の違いを研究

念願の文房具の部署に異動してからは新商品の多さに驚きました。ノート、ボールペン、シャープペン、芯も日々たくさんの商品が出てくるので、それのほとんどを試していました。接客するためもありますが、単純にあれだけ種類があって何が違うのかが気になっていて。色違いはわかりますが、シャープペンの芯の違いは比べてみないとわからないですよね。実際に試すと、書き味よりもケースの違いが大きいことに気づきました。1本ずつ出てくる、蓋を回すのかひねるのか。その違いだけでも選ぶときの基準になります。ノートは「何グラムですか」と聞かれることもあったので、重量を測っていました。こだわりが強いお客様がいらっしゃるからこそ、自分が気にしなかったことを勉強する機会にもなったと思います。

2013年から文具ソムリエールとして活動

2012年から雑誌に出始めて、2013年の終わりぐらいから文具ソムリエールと名乗り始めました。最初は会社に副業申請をして、会社員として働きながらのスタート。今は独立して仕事をしています。ソムリエールとしての役割は、文房具に興味がない人に興味を持ってもらうこと。雑誌やウェブメディア、テレビなどで、さまざまな文房具を紹介して文房具好きを新たに増やすことが仕事です。そこにやりがいを感じています。そのために日々文房具の情報収集は怠りません。

私が仕事を始めてからの10年は文房具の変革期だと感じています。10年前は「文房具を好き」と発言する土壌が整っていませんでしたが、SNSが流行り始めて文房具が好きという人を目にする機会が多くなりましたよね。どちらかというと男性が担い手だった文房具は「道具」としての側面が強かった。そこに女性ファンが増加し、新たなニーズを会得した文具メーカーは応えるように趣味性の高い文房具を作り始めました。

日本の文具メーカーは技術力がありますし、近年はさらにデザイン性の幅が広がっています。何よりも機能的なのに安価なことが魅力です。日本に暮らしながら、文房具に恵まれた環境であると知らない人が多いことはもったいないと感じています。デジタル化が進んできて、文房具業界はどちらかというと厳しい状況。だからこそ余計に日本の文房具の素晴らしさを知ってもらえたらと思います。まだまだ注目されていない文房具がたくさんあるので、私は文房具業界全体の広報PRとして、これからも活動していきたいです。

お気に入りの1本:モンブラン/マイスターシュテュック ドゥエ ジオメトリー クラシック

モンブランといえば「マイスターシュテュック 149」が有名かと思うのですが、私の手には馴染まなくて…。それで出会ったのがこのモデルです。149と比べると軸が細身で握りやすく、カッティングの美しさにも惚れ惚れします。

PROFILE

菅 未里

文具ソムリエール。大型雑貨店で文房具販売や仕入れ担当を経て、文房具の専門家として独立。文具メーカーのコンサルティング、商品企画のほか、多数のメディアで文房具に関する執筆を担当する。著書は『私の好きな 文房具の秘密』(エイ出版社)など。

Twitter:@misatokan Instagram:@kanmisato

 

 

(取材・文/中山夏美)

 

 

 

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