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成瀬洋平/イラストレーター「クライミングと絵はとても似ていると思います」

万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第17回は、イラストレーター・ライターをされている成瀬洋平さんです。

職業:イラストレーター・ライター
保有万年筆:6本

天気がいい日は仕事を切り上げてクライミングに

岐阜県でイラストレーターをしています。主な画材は水彩絵の具で、山を歩いて見た風景などを絵や文章で表現しています。また日本山岳ガイド協会公認スポーツクライミングインストラクターの資格を取得し「成瀬クライミング スクール」を主催。岩場でのフリークライミングをメインに講習を行なっています。

山登りは親の影響で始めました。小学1年生のとき、北アルプスの燕岳に行ったのが最初です。そこから夏休みなどを利用して、年1回ぐらいは山に登るようになっていきました。自分から道具を買って山に行くようになったのは小学6年生のときかな。でもさすがに子供だけでは北アルプスには行けないので、近くの山に友達と行ってキャンプをしたり。それでもうちょっと高い山に登ってみたいと思って、クライミングを始めたんです。最初はブロック塀とか石垣とかを登って練習してましたね。初めてクライミングジムに行ったのは、中学2年のときです。今みたいにクライミングジムがたくさんある時代ではなく、僕が住んでいる東海地方だと名古屋にひとつだけあって、そこに行ってみました。何回か行きましたが、本格的にクライミングをやるようになったのは、高校生になってからです。

ただ高校3年生のときに絵描きになりたいと思ってからは、ひたすら絵を描いていました。山梨の大学に行き、東京で就職した頃はほとんどやっていなかったんですよ。やめていたわけではないけれど、月に1回クライミングジムに行くぐらいかなぁ。フリーランスのイラストレーターになってからは、仕事で山に行くことはあっても、なかなかプライベートで行く機会が減ってしまって。その間の10年ぐらいはブランクがあります。

2010年に地元に戻ってきてからは、クライミングにプライベートでも頻繁に行くようになりました。レベルアップもできてインストラクターの資格も取れましたし、フリークライミングの新しいルートを開拓したりもしています。普段の生活の中で"描きたい風景”に出会えるようになりましたし、天気がいいからちょっと仕事を早めに切り上げてクライミングに行こうなんてこともできます。そういう暮らし方のほうが僕には合っていると思っています。

水彩は、自然が持つ湿潤な雰囲気が出せる

小学3年か4年のときだと思うんですけど、学校の図書館で『アラスカたんけん記』という本に出会いました。そこにはアラスカの山やクマ、住んでる人、オーロラの写真などが載っていました。子供の素直な感覚で「登山をしていたら、こんなところに行けるのかな、おもしろいな」と思って、すごく印象に残っていたんです。中学生になったときにアウトドア雑誌の『BE-PAL』を見ていたら、僕が小学生のときに見た写真と同じ写真が載っていて。よく読むとそれは星野道夫さんの追悼記事でした。

星野さんの写真を見て、僕が「山に行きたい」、「世界を見てみたい」と影響を受けたように、自分も何かそういったことに少しでも携わっていけたらと漠然と思いました。それで思いついたのが絵だったんですよね。昔から絵が好きで描いていたのもありましたし、仕事にできたらおもしろいなぁと思いました。

水彩にしたのは、雰囲気が好きだったのと、学校で水彩絵の具は絶対使うので、始めやすかったのが理由です。どこかに出かけたときに持ち運びもしやすいし、山の風景や自然の風景がもつ湿潤な雰囲気といいますか、淡い色合いが出るのがいいと思いました。

 山登りの休憩時に万年筆で絵を描いている

水彩以外に万年筆でも絵を描くことがあります。仕事で描いたのがきっかけでした。広告代理店で働いていたとき、あるメーカーの担当者が「絵を描いてもらったらそれを広告に使うよ」と言ってくださって。ただ次の日まで描いてきてほしいというタイトなオーダーだったのもあって、水彩ではなくペンで絵を描いてみようと思ったんです。そのとき使ったのは、「ロットリング/アートペン」。ブルーブラックのインクで北アルプスの風景をいくつか描いたものが広告に採用され、そこから万年筆でも描き始めました。

水彩では鉛筆で下絵を描いて、そこに絵の具で着色していってるんですけど、けっこう時間かかるんですよね。万年筆を使うときは、描いたあとにインクを水で滲ませて仕上げていきます。水を入れるもの、筆、万年筆、スケッチブックだけで描けるので、意外と楽。万年筆は鉛筆みたいに消せないから思い切って描ける良さもあります。時間がないときでも描きやすいし、水で滲ませると雰囲気もよくなるんですよ。友達と山登りに行くと、ずっと1人で絵を描いてるわけにいかないじゃないですか。そういうときは休憩時間に万年筆で描いています。その機動性の高さが魅力ですね。

だから選ぶ万年筆は、安くて軽いものばかり。山でなくしちゃっても仕方ないかって思えるものにしています。インクはブルーブラックが多いです。白いスケッチブックやちょっとベージュっぽい色のスケッチブックにもよく合います。同じブルーブラックでも青味が強いものも使っていて、残雪の雪とそれが溶けて岩肌が見えている部分の絶妙な陰影を表現できるので、気に入ってます。

クライミングの動きは身体芸術と言える

以前は、クライミングと絵を描くことは自分にとって別物でしたが、最近は、なんだか同じことのように感じています。クライミングは、登る岩を観察して、そこに自分の体の動きを当てはめて登っていきます。どういう風にしたら登れるか、登らせてくれるのかを考えて登っていくことは、実は芸術活動に近いんじゃないかと思うようになりました。それにクライミングの動き自体が身体芸術と言えるんじゃないかと。

絵は風景を観察して、自分自身がその世界に近づいて描いていきます。やっていることの根本的な部分はクライミングと似ているんです。これまでクライミングは絵のモチーフにはなってなかったんですが、そう思ってからはクライミングやクライマー、岩なんかも絵のモチーフになっています。

写真を見て描くのと、その場で描くのは臨場感が全然違います。両方やりますが、写真のほうが描きすぎちゃうかもしれないです。スケッチの場合は、例えば雲で風景が隠れてしまったり、光の加減も変わってきますしね。どちらも良さがあると思います。

年末年始に海岸の岩を登りに行ったんですけど、登る合間に風景を描いたりしていて「こういう時間もいいなぁ」って。どこかに旅に行って、ご当地インクを買い、その土地の絵を描くとかもおもしろそうですよね。

 

 お気に入りの1本:ウォーターマン/商品名不明

 フランスに行ったときにスーパーで購入したものです。わりと安く買えたので、山に行くときにも使っています。

PROFILE

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。幼少の頃から両親の影響で山登りを始める。山岳雑誌などでイラスト、執筆するほか、絵の展覧会や水彩画教室なども開催。日本山岳協会ガイド公認スポーツクライミングインストラクターとして「成瀬クライミングスクール」を主催する。

HP:https://www.naruseyohei.com/

 

 

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