コンテンツにスキップ

日下部聖悦/フレンチレストラン「プチノエル」 オーナーシェフ「探るほどに新しい発見がある。それを突き詰めたくなります」

万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第7回は、山形市七日町でフレンチレストラン「プチノエル」を営むオーナーシェフの日下部聖悦さんです。

 

 職業:フランス料理「プチノエル」料理人
保有万年筆:30本以上

 

ペンを走らせる。それがただただ気持ちいい

万年筆は好きになり始めたばっかり。この2年の間に急にハマっちゃって。でも初めて万年筆を買ったのは、35年前かな。スイスのジュネーヴに暮らしていたときです。僕は、山形で店を出す前はクウェートとスイスの日本大使館の公邸料理人として働いていました。その時代に買ったのが「シェーファー」の万年筆なんです。

ペン先がキレイでしょう。万年筆が欲しかったというより、この佇まいにグッときて買っちゃったんですよ。ほとんど使わずにずっとしまってあったんですが、万年筆にハマったのをきっかけにこれを持っていたことを思い出してね。使う前に、コンパウンドで磨いたらピカピカになりました。最初「LAMY」の万年筆を買ったんだけど、細字というのもあってなのか、どうも書き味が僕には合ってない。それで「シェーファー」を使ったら、全然違う。「万年筆、いいね」ってなったんですよね。

妻が文房具好きで、福島の「ペントノート」から仙台の「文具の杜」、銀座の「伊東屋」とか、いろんなところに一緒に行ってて。最初は興味もないから、一緒に回るのも乗り気じゃなかったんです。だけど、妻と共通の趣味にしていた京都旅行にコロナ禍で行けなくなり、万年筆でも買ってみるかと思ってね。LAMYの次に「ペリカン/スーベレーンM800」を買おうと思ったら、人気で買えない! 入荷も先だというので、憧れもあった「モンブラン」を購入。「モンブラン」は持ったときの重厚感がたまりませんね。書き味も申し分ない。初めは漢字を書くのに細字がいいと思ってこだわっていたけれど、カリグラフィーを書くようになってからは、太字や中字を好んで使っています。ペン先は平たく研がれた「ミュージック」が気に入ってて、中でも「プラチナ」のものは書きやすいですね。

万年筆は「何用」というより、とにかくペンを走らせたいだけ。書くのが楽しくってね。小学生の漢字の書き順帳とか、百人一首や写経を買ってきては、ひたすら写していました。百人一首なんて、100回は写したんじゃないかな。紙とインク、万年筆がピッタリ合ったときがすごく気持ちいい。30本以上持っている万年筆は、すべて稼働させていて、いろんな紙と万年筆を組み合わせては、ペンを走らせているんです。書いている間は、何も考えていないかもね。ただただ、その気持ちよさを味わっているんだと思います。

ペン先の太さが違うだけで同じインクでも見え方が全然違うでしょう。細字に入れたけれど、やっぱり太字に入れてみるか、とか。手を真っ黒にさせながら、インク交換するのも楽しいんですよ。それが万年筆の醍醐味ですよね。

「モンブラン」を買ったときに、高価な万年筆だからこそ書き味がいいって思ったんだけど、いろんな万年筆を使ってみると、そうも言えないってわかってきましたね。5000円の万年筆でも、十分書き味がなめらかなものもある。素材が鉄のペン先もやわらかいものがあるんですよね。逆に金のペン先でも細字だと、なめらかさに欠けるときも。「セーラー」の1万円以下のものは名品が多いですし、「ふでDEまんねん」なんて1000円代だけど、まったく問題ない。「値段=書き味がいい」ではないのが、万年筆の奥深いところで、おもしろさですね。

 

好きになったら、とことん突き詰める

これまでも“趣味”は、いろいろ経験してきました。ジュネーヴにいた頃は、スノーボード。アルプス、シャモニーなどを滑っていましたね。リフトが開くのを待って、朝イチから最後まで滑るんです。誰も滑ってないゲレンデに僕が初めてシュプールを描くんですよ。新雪のスプレーをパーッと上げてね。楽しすぎて口はポカンと開いてくるし、涙も出てくる。たまらないですよ。

当時はスノーボードが流行る前だったので、道具も第一世代。今はメジャーになった「BURTON/AIR」の一号機を使っていました。ショートスキーも試作品で買って、アイスバーンでもなんでも滑っていましたよ。年間40〜50回は滑っていたから、グローブなんてワンシーズンで3、4個ダメにしてましたね(笑)。冬のシーズンが終わると、オートバイです。1000ccのバイクでスイスからフランクフルト、バルセロナ、いろんなところまでツーリングに出かけました。

山形に来てからもスノーボードは続けていました。僕はフリースタイル派で、トリックを決めたり、キッカーを飛んだりしてたんですが、歳を重ねてからはアルペンスタイルに移行。蔵王温泉スキー場の12時間券を購入して、店の休憩時間に1時間ずつ滑りに行ってましたね。アルペンはスピードが出るので、黒姫ゲレンデの上から大森ゲレンデまで7本ぐらい滑れるから、1時間でも十分楽しめるんですよ。

山形での夏は、自転車にハマってね。最初は通勤用にマウンテンバイクを買ったんですよ。ランチが終わって着替えたら、西蔵王に自転車で登るの。ダウンヒルで90kmぐらいの速度で降りてくるんだけど、バイクより怖いですよ(笑)。それを週に4回ぐらいやってて、奥さんには「休憩時間って何のためにあるかわかる?」なんて言われちゃってました。

お客さんで自転車好きの方からお誘いいただいて、ロードバイクもするようになったんですね。1日で100km走ったことないって言ったら、連れて行ってくれて。25km以上出さずに力を溜めて走ると、100kmもまったく辛くないんですね。そこから一気に楽しくなって、1日200km走れるように。金山町や鮭川村までも行きましたよ。日の出から日入りいっぱいまで走って12時間ぐらい。辛そうに思われるかもしれないですが、雪が降るまでに5000km走っている僕からしたら、楽しくて仕方なかったんです。 

今はどの趣味もやめてしまって、万年筆と妻と行く京都旅行がいちばん。どちらも妻の勧めで始めたことだけど、僕のほうがハマっているかもれません。 

万年筆もこれまでの趣味も同じで、好きになったら、とことん突き詰めたくなるんですね。凝り性な性格だからこそ、料理人になったとも言えます。小学生のときから料理はしていたし、その頃すでに揚げ油の最適温度がわかってましたからね。

自転車、スノーボードも道具にとことんこだわって、自分用にカスタマイズも楽しんでいました。料理も含めて、探るほどに新しい発見がある。そこに惹かれてしまうんだと思います。 

お気に入りの1本:セーラー/プロフェッショナルギア 21K

書き味がやわらかい。僕は手が大きいので、太めの軸が好み。仙台にある文具店「樂」でペン先を磨いてもらったら、より書きやすくなりました。

 

PROFILE

 

日下部聖悦

山形市七日町に構えるフレンチレストラン「プチノエル」のオーナーシェフ。東京で修行後、クウェートとジュネーブの日本大使館の公邸料理人に。料理人人生は47年。

プチノエル

住所:山形県山形市七日町2-3-12
TEL:023-623-8350
営業時間:ランチ 11:30~13:30(L.O)ディナー 18:00~21:00 (L.O)
定休日:日曜
HP:https://petitnoel.jimdosite.com/

 

(取材・文/中山夏美 写真/長岡信之介)

前の記事 eric/消しゴムはんこ作家・イラストレーター「文房具店で宝探しをしたい」
次の記事 いくたはな/漫画家・イラストレーター「気持ちをカタチにすることで漫画家になれました」

Life & Pen

How to use?