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ふじいなおみ/文房具プレゼンター「文具が新しい人との縁を繋いでくれました」

万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第32回は、ラジオや執筆などで文具・インクについてを発信するふじいなおみさんです。

職業:文房具プレゼンター
保有万年筆:28本

万年筆が試験合格に導いてくれた

ーーーご当地インク研究家としても活動されているふじいさんですが、万年筆とインクの出会いはいつですか?

「初めて手にした万年筆は、両親から就職祝いにもらった「PILOT/グランセ」です。万年筆は大人の筆記具のイメージがあったので、社会人の仲間入りをした記念になりました。でも、高級だから持ち歩くのも不安だし、使い方もわからないし…という状況で、15年ほどカートリッジを入れては枯らして入れ替えてを繰り返していました」

ーーーけっこう長い間、使わない期間があったのですね。その状況からヘビーユーザーになったきっかけは何だったのですか?

「2017年に『北海道観光マスター』の試験を受けようと思ったのがきっかけです。妊娠するまではラジオパーソナリティを務めていたのですが、出産、育児で現場を離れていました。その間に自分の売りになる資格を持ちたいと思い、出身地である北海道の試験を受けようと思いました。その勉強をするときに万年筆を使い始めたんです。初めは普通のペンで勉強をしていましたが、手がすぐ疲れてしまって。万年筆って、長く書いていても疲れないっていいますよね?それで万年筆を使ってみようと思ったのが始まりです」

ーーーそのときはすでにインクにもこだわっていたのですか?

「万年筆を使いたいもうひとつの理由が「PILOT/色彩雫」のインクに出会ったことです。この素敵なインクを使いたいという気持ちがありましたし、インクが全部なくなるぐらい勉強をしてみたいとも思いました。「PILOT/kakuno」の万年筆を2本買い足して勉強した結果、見事合格できました」

その土地を感じながら使えるのがご当地インクの魅力

ーーー初めて購入されたカラフルなインクは「色彩雫」だそうですが、その頃からご当地インクの存在は知っていましたか?

「文房具の雑誌で知りました。大分県別府市のふるさと納税返礼品が『湯けむりミストブルー』というご当地インクであることを知り、すぐに注文しました。湯けむりごしに見える山や空をイメージした色です」

ーーーそこから「インク沼」にハマっていくわけですね。

「北海道観光マスターの試験を受けに札幌に帰省したときには『大丸藤井セントラル』でインクを買いました。北海道は昔、石炭が採れる地域でしたので、それをモチーフにした青黒い色です。それを買ったあたりから歯止めがきかなくなっていました」

ーーー八文字屋オリジナルインクもそうなのですが、その土地ならではの色味を再現しているのが、ご当地インクの魅力でもありますよね。

「ご当地インクにはインクを作った由来を記した説明書が入っていることが多いです。どんな場所であるかやインクに込めた思いもわかるので、それも楽しみなんです。兵庫県神戸市のご当地インクに『生田神社』の鳥居の色を表現した赤色のインクがあります。ただの赤として使うのと、その土地を感じながら使うのでは、気持ちが違う。訪れてみたくもなりますし、インクに対して親しみを持って使える気がしています」

ーーー旅先でご当地インクを購入される人もいるみたいですよね。ふじいさんも現地で買われたインクが多いのですか。

「まだ子どもが小さいのもあって、通販で購入することが多いですね。私がちょうど、ご当地インクにハマった2017年、18年あたりはSNSで『#インク沼』が流行りだした頃。そこではインクの交換会もブームになっていました。SNSで知り合った方々と『タミヤ/スペアボトルミニ』に入れたインクを郵送で送り合うんです。コロナ禍のときは外出もしにくく、息苦しかったですよね。そんな中、交換会を郵送で企画してくれた友人がいて、遠くの方とのインクを通じた交流が楽しかったですよ」

ーーーコロナ禍で旅行がしづらいときのインク交換は盛り上がりそうですね!ご当地インクを発売している地域は、日々増えているようにも感じます。

「そうですね。ほぼ47都道府県であるかもしれないです。数はわからないですが、種類でいうと1000種類は超えていると思います。シリーズで出されているお店もあれば、単発で出しているところも。インクメーカー『Tono&Lims』が登場したことで、フットワーク軽めにインクを作れるようになったと感じています。また、それ以外にもオリジナルで作る方法が増えていると思うので、文房具店に限らず、セレクトショップやクリエイターさんなどもオリジナルインクを販売していますよね」

ーーーまだまだ知らないご当地インクはありそうですね。インク沼、そしてご当地インクブームが万年筆人気に拍車をかけているのかもしれません。

「万年筆とガラスペンとインクをセットで考える人が多いですからね。私は『kakuno』が2017年に透明軸を販売したのも大きいと思っています。キレイなインクの色が見える透明軸が1000円代で買えるのは、画期的でした。インクの数だけ『kakuno』を持ち歩く人がいたぐらいです。万年筆を持っているからインクを買うという考えから、インクを使いたいから万年筆、ガラスペンを買うという考えを持つ人も増えた印象です」

「本当にいいもの」を紹介する

ーーー現在、ふじいさんはラジオやウェブサイトなどで文具の魅力を発信されていますよね。

「ユニットを組んでいる他故壁氏(たこかべうじ)さんとラジオ『他故となおみのブンボーグ大作戦!』を始めたのは、2020年の10月です。その頃、パートで事務職もしていたのですが、コロナ禍でお休み状態。ラジオパーソナリティだったこともあって、自分で番組を作ろうと計画していたところに、他故さんと出会いました。私がここまで文具に詳しくなれたのは、6歳の頃から文具好きを公言している他故さんのおかげです」

ーーーふじいさんも他故さんもコレクターというよりも、文具が本当に好きで使っている印象があります。

「文房具ライターの先輩である、きだてたくさんは新しい商品は30分以上使って、使い心地を自分の言葉で説明するとおっしゃっていました。プレスリリースを読んだだけ、少し書いてみただけでは、意味がない。自分で感じたことだけを記事にされていると聞いて、私もそこになるべく近づけるようにしています。今は育児グッズとしての文具の記事を書かせていただいていますが、それも子どもとしっかり使ってみてから発信しています」

「文具が趣味です」という人を増やしていきたい

ーーー新しい文具の発売、文具イベント人気は、まだまだ盛んな日本ですが、これから変化はありそうですか。

「さらに趣味のものになっていくのではないでしょうか。『これが好き!』というのを極めている方が増えていますよね。守備範囲もニッチになっていっている気がしています。私は最近、ビンテージの万年筆にもハマっています。古い万年筆はペン先に難がある場合がありますが、そのときには万年筆調整師の長原(幸夫)さんにお願いして、ペン先を整えてもらっています。お気に入りは他故さんにプレゼントしていただいた私の生まれ年の万年筆です」

ーーー日付の刻印がされているものがあるのですか?

「私が持っているのは『PILOT/カスタムグランディトモ』で、ペン先のサイドにH1079と入っています。Hは神奈川県平塚市にあるPILOTの工場を意味していて、79が1979年、10が10月。私の生まれ年かつ月なんです。すでに45年の歳月が経っているものではあるのですが、今後の人生は一緒に年を重ねていこうと思っています。万年筆ってそういうロマンがありますよね」

ーーー人生を共にする万年筆との出会い、素敵です!ふじいさんが今後やってみたいことはありますか?

他故さんの発案で『推し文房具の会』というのをラジオ番組主催で始めています。文具が好きな人にいろんな形でその『好き』を伝えてほしいと思っていて、自分が今、推してる文具をプレゼンしてもらうイベントです。子どもたちにも、もっと文具に興味を持ってもらいたいし、書く楽しみも知ってもらいたいと思っています。4月から、ポットキャストでも聴けるようになったので、ぜひご一聴ください!」

お気に入りの1本:PILOT/グランセ

両親に就職祝いにもらった初めての万年筆です。20年以上経ちますが、まだまだ現役。ずっと使い続けていきます。

PROFILE

ふじいなおみ

「他故となおみのブンボーグ大作戦!」でラジオパーソナリティを務めるほか、企業Webサイトでの執筆などで「文房具」情報を発信する。

X:@bisconao
ラジオHP:他故となおみのブンボーグ大作戦!

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