【後編】山本泰三/山本紙業・代表取締役社長「紙の世界には語り尽くせないドラマがある」
大阪府堺市に本社を置く「山本紙業」は、「紙」の卸業者です。1972年に創業し、卸売を主軸としながら2010年にはオリジナル紙製品を発売。文具メーカーとしても世界中にファンを持っています。前編では、2代目代表取締役社長の山本泰三さんに、1枚の紙の奥深さ、文具メーカーとしてスタートしたきっかけについて伺いました。
後編では、海外進出から山本社長が満を持して製品化をした「CANOPUS NOTE」についても伺います。

山本泰三さん
山本紙業・代表取締役社長。「日本一の紙屋」を目指し、オリジナル紙製品の販売や海外出店、イベント主催など、紙の魅力を広める活動に取り組む。
サンフランシスコペンショーで日本の紙が評判に
ーーー山本紙業のオリジナル文具は、海外での人気も高いですよね。
「『RO-BIKI NOTE』を発売したあとに、2010年からニューヨークで行なわれている『NY NOW』という世界中のバイヤーが集まる卸売の見本市への出展を始めました。 評判は上々で注文をいくつか受けることもありました。でも単発なことが多かったですね。海外での需要をハッキリと感じたのは、2017年に行った『サンフランシスコペンショー』でした。弊社とロンド工房(大阪に拠点を持つステーショナリーメーカー)、ベアハウス(文具クリエイターの阿部ダイキさんによる文具メーカー)の3人で『K3』というユニットを組んでいて、Podcastをしているんですね。それをアメリカ人の方が聞いてくださっていて、日本に行くから会って欲しいと連絡があったんです」
ーーーそんな出会いが!
「ちょうどアメリカでも日本の文具ブームが右肩上がりになっているときでした。サンフランシスコでも文具の盛り上がりを作っていきたいし、 ペンショーも盛り上がっているから来てみないかと彼が声をかけてくれたんですよ。NY NOWに出展したその足でサンフランシスコペンショーにも行きました。そしたら、夜はブースが空くからここを使ってなんかやったらって彼に言われまして(笑)」
ーーーとってもアメリカっぽいです(笑)。
「ですよね。そこで日本から持っていった、いろんな種類の紙を自由に使って試筆してもらう体験イベントをやったんです。そしたらものすごい好評で。体験してくれた方々は、万年筆で書いても滲まない紙があるのかー!と感動してました。それで来年はサンフランシスコペンショーに出ようと決意しました」
ーーー品質の良さに感動されたわけですね。やっぱり日本の紙は世界的に見ても優れているんですか?
「優れてると思いますね。アメリカの子どもたちが使ってるノートなんて本当にガサガサだし、 罫線もむちゃ濃いし。そういう細かいところを重要視していないんですよね。多分、こだわる部分の価値観の違いだと思います。日本は、その昔は西日本で売る紙の色と東日本で売る紙の色が若干違っていたんです。 西日本はちょっと青白い紙で、 東日本はちょっと赤みがかった白の紙。日本の中でもニーズに合わせて作り分けていました。今はだいぶ生産効率性を上げるために統一になってきていますが、そうやって細かく違いを分けるのは日本人っぽいですよね。 アメリカはいかに効率よく生産するかが1番の美徳とされているので、日本人はなんでそんな効率悪いことをやってるの?と思っていると思います(笑)」

ーーー今、アメリカで人気の紙というと種類は何になるんですか?
「オンタイムでいうと万年筆向けの商品がよく動いてますね。そもそもアメリカは万年筆の技術は優れているんですよ。それなのに紙にはこだわらない。万年筆で書いていて、ちょっと引っかかるけど気にしないんでしょうね。日本人だと、万年筆に合わせて紙も選ぶと思うんですけど、アメリカ人にはその考えはなかったのかもしれませんね」
ーーーアメリカの文具店には日本の文具がけっこう売っているんですか?
「日本の文具だらけですよ。ほぼ日手帳もアメリカですごく人気です。トモエリバーの紙を使ったほぼ日手帳はアメリカでも革命だったんじゃないかな。万年筆で書いても滲まない!って。2019年にサンフランシスコのペンショーに出展したときに『書いて気持ちいい紙探し』という体験イベントをしたんですよ。僕がおすすめする万年筆向けの紙を15種類ぐらい持って行って、書いてみて心地良い紙を見つけてみましょうというもの。そのときはコスモエアライトが圧倒的人気でした。色のシェーディング(陰影)がきれいやし、シーニング(万年筆のインクが乾くときに色が変化して見えること)も出るやんとかって言って喜んでくれたんです」
ーーーコスモエアライトも手帳用の紙なんですか?
「いえ、雑誌と書籍の中間にあたるMOOKによく使われていた紙です。写真と字の両方をきれいに印刷できる紙としてMOOKに使われていました。その紙が万年筆での書き味がいいと広めてくれたのは、このイベントがきっかけですね。みんながコスモエアライトを好きと言ってくれたので、来年はノートを作って持ってくるよって約束しました。それがコスモノートやったんですよ。翌年、サンフランシスコでコスモノートが話題になって、そこから日本でも人気が出るようになりました」
コスモエアライトに匹敵する優れた紙を生み出したい
ーーーコスモエアライトはもう生産を中止してしまったんですよね。
「そう。日本製紙が出版の縮小に伴い生産をやめたんですね。 2022年の12月でした。コスモノートが作れなくなって、でも山本紙業としては面白い紙、コスモエアライトに負けない紙をみんなに紹介したいっていう思いがありました。そこからまず自分たちで企画した紙を作れないかと考えました。でも、そこで立ちはだかるのが50トンロットのハードル。それは難しいので、コーティングするテストを行なったり、いろんなことにチャレンジしてようやく自分たちのロット感でできるところまで落とし込めて完成した紙が『CANOPUS』でその紙を使った 『CANOPUS NOTE』の販売を始めました」

ーーーCANOPUSは、完全オリジナルの紙なんですか?
「ベースになってる紙はあるんですけれども 筆記用に特化したものとしてはオリジナルです。コスモエアライトと同じではないですが、筆記感をより楽しんでもらえる書き心地としては上かもしれません。やっぱりすごくこだわったのはどのインク使っても滲まないこと、裏に抜けてこないこと、インクの中の濃淡がきれいに見えるシェーディング、光沢もきれいに出ること。あとはドライタイムが早いとかも。実は全部を実現しようと思ったら、こっちを犠牲にとか出てくるわけなんです。だけど、どれも省きたくはない機能なので、バランスよくベストを目指しました」
ーーー完成までどれくらいかかっているんですか?
「3年ですね。コスモエアライトがなくなると聞いてからすぐに動き出しました」
ーーーCANOPUSの名前の由来も知りたいです。
「星の名前です。CANOPUSは、地球から見える星の中で、2番目に明るい星。でも、日本からは地平線より少し高い位置に存在しているので、対岸で戦火があがってたら、明るくて見えないんですよ。この星が見えているということは、平和の象徴なんです。対岸も戦争がなく幸せであるということ。それにCANOPUSは、お願いごとをしたら叶う星とも言われていて、七福神のもとになったという説もあります。書いて楽しむなんて、小さいことでも幸せを感じられる。そんな時代であって欲しいという願いを込めて名前をつけました」
次は和紙にチャレンジ

ーーーコスモエアライト以外にもトモエリバーも生産が終わってしまいました。良質な紙がなくなってしまうのは残念ですね。
「昔は、紙が1番広く情報を発信できる媒体の役割を担っていましたが、デジタルは便利ですし、またこれから紙に戻るっていうことはないと思います。では紙はどういう存在なのか。意味が変わってくると思うんですよね。フレキシブルにニーズを汲み取りながら次に繋がる紙がどんなものなのかを考える必要はあるのかなと思いますね。いい紙が日本にはたくさんあるのですが、ニーズが少なくなればどうしても生産できなくなってしまう。悲しいことです」
ーーー需要が高まれば生産が再開されることもあり得るんでしょうか。
「製紙メーカーさんのほうで会社方針を変えている企業も多いので、生産が終了している紙については難しいかもしれないですね。リチウムイオンバッテリーの中に使われている電気を通さない紙やスマートフォンとかの基板も紙で作られてたりとか、同じ紙でもそういう産業向けにシフトしているところも多いんです。でもトモエリバーについては、巴川製紙所さんが2021年に生産を中止しましたが、その技術を三善製紙さんが引き継いでいます。別会社が作っているので、厳密には違う紙なんですが、限りなくトモエリバーに近い紙です」
ーーーすごい!技術を引き継いでもらうなんて素敵ですね。
「本当はライバル会社ではあったんですが、やっぱりユーザーからなくして欲しくないという声が大きかったんだと思います。新しいトモエリバーを作るにあたって、三善製紙さんが『ほぼ日手帳』を作る『ほぼ日』にヒアリングしたところ、手帳にフリクションペンを使っているユーザーが多かったという意見をもらって、フリクションペンでこすっても、よれない紙に改善されています。旧トモエリバーに新しいレシピを追加して発売しはじめたのが、三善トモエリバーですね」
ーーー熱い話ですね!ドラマ化してほしいぐらい。
「製紙工場によって、様々なドラマがあると思います。そういうエピソードを聞くと、また紙を使うときの気持ちが変わりますよね」
ーーー山本紙業でも、新しい紙の企画を考えていたりしますか?
「作りかけているのは、和紙です。万年筆向けに考えています。『金閣殿』という高知県で作っていた和紙があるんですよ。おじいちゃんとおばあちゃんで作っていたので、高齢化で工場を閉鎖してしまって。今は作られていません。万年筆で書いても全然滲まない良質な紙なんです。いよいよ工場を閉めるときに工場に残っている紙を全部買いに行ったんですが、ついにうちの倉庫も底をついてきました。そこで、その金閣殿を作っていたおばあちゃんに会いに行って、『復活させたいです。名前を使っていいですか』と聞いたら『ぜひ使ってくれ』と言っていただけました。今、新しい金閣殿を開発中。3回テストやって、ええところまできているので、もうちょいです」

山本紙業のオリジナル文具は、八文字屋Online Storeでも販売中です!その良質な書き心地をぜひ体験してみてください。
(取材・文/中山夏美)