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福島槙子/文具プランナー「文房具を仕事にして365日幸せです」

万年筆を愛する方に、その出会いと魅力についてお話していただく「Life&Pen」。第11回は、文具プランナーの福島槙子さんです。

 

職業:文具プランナー
保有万年筆:80本

コレクターではなくユーザーとして文房具が好き

絵や文字を書くのは小さい頃からずっと好きだったのですが、自らこだわりを持って文房具を買ったのは中学生のときです。握りやすさ、書き心地すべてが気に入ったシャープペンシルとの出会いが「ゼブラ/エアーフィット」。当時「PILOT/ドクターグリップ」が流行っていたときで、エアーフィットは、それに似ています。どちらもグリップ部分がふにふにしているんですが、私はエアーフィットのほうが好みだったのと、ドクターグリップよりも安価で中学生には手に取りやすかったのもあると思います。店頭で何本か握ったり試し書きをして、この1本に決めたんです。エアーフィットのピンクを5本ぐらい購入して、学校用、家用、ペンケース用と使い分けていました。イラストや漫画を描くのも趣味だったので、プロの人を真似してわざわざGペンやコピックペンを買って描いている時代もありましたよ。

教師だった両親も文房具が好きで、とくに父は手帳も自作するほどでした。自分の使いやすいフォーマットをコピーしてファイリングし、それを手帳として使っていたんです。母親も展示物を作ったり、何でも自作する人。そのときは、それが普通だと思っていたけれど、今思えば、私の文房具好きは完全に両親の影響が大きいと思います。

学生の頃はノートの取り方も「きれい」って周りから評判で(笑)。見やすくするのはもちろんのこと、自分なりにわかりやすくまとめたり、先生が板書しないことも追加して書いていました。色は使いすぎると逆にわかりづらくなるので、2、3色と決めていましたね。

私はどちらかというと、コレクターではなくユーザー目線で文房具を見ています。初めてシャープペンシルを選んだときもそうですが、実用性は重要なポイント。見た目だけ、機能だけではなく、そのバランスがとれている文具を選んでいます。この気持ちは、初めて文房具を好きだと感じたときも、文具プランナーとして仕事をしている今も変わらない思いです。

高校では美術部。そして美大へ進学

高校では美術部に所属していたので、画材への興味も出てきました。同時に美術館に行くことが好きになり、将来はキュレーターの仕事に就きたいと思うように。それで山形の東北芸術工科大学に進学したんです。日本の大学で文化財保存修復学を学べるのが、芸工大と京都芸術大学だけで、私は芸工大を選択。歴史、美術品のメンテナンス方法、文化財の保存について学びました。理由があり中退してしまったのですが、それもいい経験となっています。

地元に戻ってからは、自分の好きなことを活かせる仕事としてライターを始めました。趣味であった漫画やアニメ関連の執筆を担当。声優さんのインタビューなどもしていました。最初はウェブメディアが中心で、編集プロダクションに就職したのをきっかけに紙媒体も関わるように。書籍も何冊か手掛けています。文章を書くのは嫌いではなかったので、仕事自体は楽しくやってはいました。

でも、途中で気づいてしまったんです。漫画やアニメを好きだけど、本当の「好き」ではなかったんだって。自分が好きなものを鑑賞するのはいいのですが、仕事のために40、50と作品を見続けるのは苦しい…。段々、自分が本当にやりたいことについて考えるようになっていました。

「何をやりたいか」を考えたときに思い出したのが「文房具」でした。子供の頃から、ずっと変わらず好きであるもの。それを仕事にしてみようって思ったんです。

文具プランナーとして仕事を開始

2014年に「文具プランナー」としての仕事を始めました。これまで誰も名乗っていなかった肩書きで、私にしかできない仕事だと思っています。主な仕事内容は、文房具についてを発信すること。さまざまな媒体でインタビューを受けたり、自分でもウェブメディアを運営。それ以外には、「himekuri」というステーショナリーブランドのプロデュースもしています。

ライターをしていた頃は、好きなことを仕事にしたはずなのにどこか窮屈さを感じていました。だけど、文具プランナーになってからは毎日が大充実。インタビューも、原稿を書く仕事も、商品をプロデュースするのも、方向性はいろいろですが、最終的にすべて文房具のこと。365日大好きな文房具のことを考えていられるなんて、私にとっては幸せでしかありません。この仕事が合っているし、文房具が本当に好きなんだなって実感しています。

1番好きな文房具を上げるとしたら「手帳」と「付箋」。手帳は文具プランナーになる前から毎年何冊か試して、今年の1冊を決めています。生活スタイルや仕事内容でも使いやすい手帳は変わるので、自分に合った手帳はこれです、とは一概には言えません。それもおもしろさです。

付箋は唯一コレクションしているもので、本や手帳に貼る以外に請求書などを送るときにひと言メモやお礼状にも付箋を使うことがあります。かわいくてメッセージが書けるデザインのものが好みです。

 

長く大切な1本として使えるのが万年筆の魅力

万年筆を使い始めたのは文具プランナーになってから。いろんな文房具に触れたいと思って買ったのが「プラチナ/プレピー」でした。他の筆記具と違って筆圧がいらないことが印象的で、そのあとすぐに「LAMY/サファリ」や「PILOT/コクーン」を購入。さらにその書き心地の良さを理解でき、もっといい万年筆を試してみようと「プラチナ/#3776 センチュリー」を。どんどんその魅力を感じていきました。

時々、お子さん向けに万年筆のワークショップを開催しているのですが、そこではプレピーを使って絵を描いたり、お手紙を書いたりしてもらっています。参加されるお子さんは、万年筆に触れるのが初めてという子ばかり。みなさん、その書き心地の良さに感動してくださいます。

愛用している万年筆のひとつに友人から譲り受けた「モンブラン/マイスターシュテュック#144」があります。使い込まれている分、ペン先に育っている感覚が。リフィルを交換できるボールペンはありますが、誰かから受け継ぐということはないですよね。でも万年筆は、長く使って“育てる”というおもしろさもある。自分の大切な1本として付き合っていくのもいいですし、それを誰かに受け継いでもらうのも楽しみのひとつかもしれません。

手書きでしかできないことにフォーカスしていく

仕事のメールやコミュニケーションとしてチャットツールを使うのはいいと思うんです。でも“ここぞ”というときには、手書きにしたい。お礼や手紙はやっぱり手書きのパワーが発揮されてると思っています。私が万年筆とともに手書きアイテムとして愛用しているのは「神戸派計画/グラフィーロ」の便箋や一筆箋です。

コロナ禍になってからパーソナルな文房具の需要は増えていると聞きます。手帳や日記帳、万年筆やガラスペンなど個人が自分の気持ちを充実させるために使うアイテムに注目が集まっているんですね。見た目にもかわいいものが増えていて、なかでも「くすみカラー」のアイテムが人気だそうですよ

学習アイテムもデジタル化の波がありますが、例えば漢字の練習はiPadより紙に鉛筆で書くほうが覚えられる気がしませんか? 同じ書く行為だとしても書き心地も違いますし、書いたものが溜まっていく感覚は紙じゃないと味わえません。ノートを使い切ったときの達成感や少しよれてきたときの手触り、モノとしての魅力はアナログとしての良さですよね。

私は中学生のときから使い終わった手帳はすべてとってあります。たまに見返すことも。予定は書いたほうが記憶にも定着しますし、何より書き込みたい。手書きは、上手に書くよりも自分らしさが出るのが1番。その人の気持ちや表情が出るのが手書きならではの良さだと思っています。

 お気に入りの1本:プラチナ/#3776 センチュリー セルロイド 桜柄

セルロイド製のプラチナは、その軸のデザインが気に入って購入。ピンクの万年筆を探していたところ、やっと理想の色が見つかりました。

PROFILE

 

福島槙子

文具プランナー。文房具の企画、商品プロデュースのほか、ウェブメディアなどの媒体で文房具の魅力、使い方を発信する。ステーショナリーブランド「himekuri」シリーズのプロデュース、ステーショナリーショップ「&mew」では自らが使いたい文房具を企画している。

HP:https://makiko.info/

協力:神戸派商店 表参道office & shop https://fromkobe.jp/?mode=f10

 

取材・文/中山夏美 写真/yoshimi

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